川の浄化を考える
第23章 美女の肌を守りつづけた炭
1972年、中国の湖南省長沙市郊外にある馬王堆の墓地から、一人の婦人のミイラが発見され、世界中の注目を集めました。ミイラは二千年以上も前のものでありながら、まるで埋葬された当時そのままの状態で保存され、肌には弾力が残っていました。 棺の周囲には約5トンの木炭が使われていました。炭の優れた吸湿性とアルカリ質の抗酸化性を利用して、遺体の永久保存を考えていたようです。 炭が防腐剤や吸湿材の働きをすることは、わが国でも古くから良く知られていました。 これからは炭の持つ特性について、特に木炭よりもさらに吸着力のある竹炭について詳しく解説していきたいと思います。 1)世界一の技術で焼かれる日本の竹炭。 竹林で伐採した竹を空気中で加熱すると、燃焼して灰になります。同じ竹を密閉した窯の中で加熱すると、炭化という現象が起こり、竹炭ができます。 竹炭の断面を顕微鏡で観察すると、無数の孔がちょうど微細なパイプを束ねたような構造になっていることがわかります。孔の内部表面積は竹炭1グラム(おとなの指先くらいの容量)当り300平方メートル以上もあります。これはタタミ二百畳以上の広さに相当します。ちょうど小ぶりのバナナ1本分の丸炭でも、その表面積は東京ドームがすっぽり収まってしまうくらいで、竹炭の優れた吸着力はこの広い表面積によるものです。また、BET法という測定法で竹炭の吸着力を調べると、約800℃で焼いた竹炭は50~60平方メートルで、備長炭よりも強い吸着力があることがわかります。 備長炭のように約1000℃の高温で炭化され、そのまま炭窯の外で急冷されるものは表面の組織が良くしまった硬質の炭に焼きあがります。これに対して、比較的低温で炭化され、ゆっくりと冷やされた竹炭のほうが、多孔質となり、吸着力も大きくなることが実験でも証明されています。 竹炭は吸着した微量成分を表面の微生物膜で分解し、水分だけを分離する特徴があります。硬質で砕けにくく、水の流れを阻害することがないので、河川や生活雑排水の水質の浄化にも、田畑の土壌改良にも、独自の効果を発揮します。 2) 竹炭の孔は微生物の高級マンション 孔の表面がサッカーボールのような外観を呈し、ハニカム(=蜂の巣状の六角形)構造になっているのも竹炭の特徴です。無数にある孔の径は均一でなく、1千万分の1ミリ(ミクロン)単位のものまで、大小さまざまに分布しています。 すべての孔が外界に通じているので、空気や水が通りやすくなっています。それだけ外から栄養分が取り入れやすく、微生物が住みつきやすく、繁殖しやすい環境なのです。人間の居住環境で言えば、ちょうどエアコン装置が完備した大小さまざまの間取りが用意され、住み心地満点の高級マンションにたとえることが出来ます。 径の大きい孔には糸状菌、小さい孔には放線菌、もっと小さい細胞のすき間にはバクテリア類が、住み分けるように着生します。 竹炭はミネラルを豊富に含んでいます。これが着生した微生物を一層住みやすくしています。400℃以上の温度で焼かれた竹炭はPh値が7~8のアルカリ性で、酸性を好む微生物(好気性菌)にとっては、住みにくいと考えられたり、竹炭は無機質であるために微生物のエサになる有機物に乏しいと思われています。しかし、実験をすると、微生物はよく着生するし、特に有機物(臭いや汚れの成分)の分解を得意とする放線菌がよく繁殖することもわかっています。 このように空気や水をきれいにする竹炭の効用は、実は吸着した臭いや汚れの成分を、竹炭を住処とする微生物が分解処理してくれる働きによるものなのです。 3)竹炭の使い方あれこれ 竹炭の豊富なミネラルで健康づくり/竹炭はガーデニングに最適/野菜のアク抜きから美容まで使える竹炭/湿気とカビを追放/室内の消臭に役に立つ竹炭/竹炭で水もご飯も美味しく/電磁波から身を守る/竹炭で洗濯すると肌にやさしく川も汚さない/野菜・果物・生け花の鮮度が長持ち 4)水の浄化力が1000倍になる! 都市近郊の河川や湖沼では水の汚濁が進み、ヘドロが堆積して、気温が高くなる夏場には悪臭を発する水質になっています。生活雑排水などに含まれるリンや窒素などで水の富栄養化が進み、特定の植物プランクトンが増殖して、水面に青緑色のアオコが異常発生している湖沼も少なくありません。 水の汚染度を示す数値として、BOD(生物化学的酸素要求量=水の汚れを微生物が分解するのに必要な酸素の量をppmで表示したもの)とCOD(化学的酸素要求量=化学薬品を使って三十分間で汚れを分解するのに必要な酸素の量をppmで表示したもの)が用いられます。 たとえばBOD5ppmとは水1立方メートル(1トン)当り5グラムの酸素を必要とする有機物が含まれるということになります。BODもCODも数値が大きいほど有機物の濃度が高く、水の汚れがひどいことを示しています。通常、河川の汚れはBOD、湖沼の汚れはCODで示されます。国はこの数値を一定基準以下にすることを目指しています。 しかし、1996年度の達成率は全調査地点のうち河川が73.6パーセント、湖沼が42.0パーセントで、特に生活雑排水が流れ込む都市部の中小河川と湖沼の汚染が深刻です。 水道水の約70パーセントは河川から取水していますが、現在の浄水技術では完全に処理できません。「水道水がカビ臭い」といった苦情が多くなり、1995年度にはすでに1210万人が水道水に不満を訴えています。 こうした河川や湖沼の水質汚染は社会問題として重視され、様々な対策が講じられています。中でもこぶし大の割栗石(小さく割った石片)を水底に敷き詰めて、その表面に住みつく微生物に汚染物質を分解させる浄化法が最も一般的です。 しかし、小石の代わりに多孔質の竹炭か木炭を用いると、その表面積は小石よりケタ違いに大きくなり、微生物が炭の内部まで住みついて増殖するために、浄化力は小石の1000倍以上にもなります。それに小石を使った場合、定期的にその表面を掃除しなければならないが、炭は多量の微生物がその役割を代行してくれるので掃除の必要がありません。 静岡県川根町は高級茶の産地として知られています。この町では生活雑排水で汚れがひどくなっている堀川の浄化策として、町で焼いている炭をかごに入れて川底に敷きました。かごの大きさは幅1.2メートル、長さ2メートル、深さ60センチ。合計12個のかごに4トンの炭を投入した結果、水1リットル当り14.1ミリグラムあった塩分が約4ミリグラムに減り、有機物などの汚染物質も減少していることがわかりました。 同じような実験は東京都八王子市でも行われました。地元の婦人会が約120キロの炭を焼き、これを2~5センチの長さに砕いて袋に入れ、多摩川の支流・南浅川にそそぐ生活排水炉に敷き詰めました。その結果、1ヵ月後には悪臭がなくなり、三年後にはウグイが産卵し、ホタルも飛び交うようになりました。水質を調べると、アンモニア分が3.9ppmから0.17ppmに減り、BOD値も11.0ppmから4.5ppmまで浄化されました。また、金属など、不純物の混入量の目安である電気伝導度の数値も約三分の一に低下しました。 こうした実例で明らかなように、多孔質で内部表面積が大きく、吸着力の優れた炭は、河川や湖沼の汚濁した水質の浄化にはうってつけです。汚水中の洗剤など微量の化学物質も確実に吸着するのです。 とりわけ、低コストで、簡単に大量生産できる竹炭は、河川の水質浄化材として大きな期待が持てます。 前へ 次へ | 川の浄化に関する活動について 生活アートクラブは川の浄化をまじめに考えます 第1章 水と人間の関わり 第2章 水の大循環 第3章 海に囲まれている日本 第4章 水道水の浄化処理方法 第5章 日本の下水道について 第6章 下水道ものしり事典 第7章 最近の台所用合成洗剤 第8章 生活排水を汚す原因 第9章 環境への思いやり 第10章 洗剤による水汚染について 第11章 河川の水質汚濁防止方法 第12章 排水に関する法規制 第13章 生活に川をとりもどすために 第14章 川に流される大量の合成洗剤 第15章 危険な合成洗剤 第16章 台所用合成洗剤のゆくえ 第17章 合成洗剤や石けんの残留 第18章 石けんは環境や体にやさしい 第19章 界面活性剤の役割 第20章 化粧品に含まれる指定成分 第21章 合成洗剤についてのQ&A 第22章 竹が環境浄化に役立つ理由 第23章 美女の肌を守りつづけた炭 第24章 炭の浄化力 第25章 竹炭の材料になる竹の種類 第26章 竹炭の特徴について 第27章 今自分にできることを 第28章 地球はちょっと疲れてる 第29章 HPを立ち上げるきっかけ 第30章 愛 第31章 魚と合成洗剤 第32章 竹を見直そう! カンボジアの井戸掘り事業 |