川の浄化を考える
第4章 水道水の浄化処理方法
水道水の安全性について考える前に、まず水道のシステムをざっと見ておこう。 日本の水道は、43パーセントが河川水、30パーセントがダム、18パーセントが大きな井戸、8パーセントが伏流水、1パーセントが湖水を水源としている。 この原水は各地の浄水場に送られてきて、まず粗いごみなどが除かれる。むろん、それだけでは多くの不純物や細菌が含まれており、これを根本的に浄化するのが次の濾過工程となる。 濾過する方法はニ種類、一つ目は細砂を敷き詰めた広大な砂濾過池で徐々に濾過する「緩速濾過法」と、もう一つは原水中に硫酸アルミニウムを入れて汚染物質を凝集し、その塊(フロック)を沈殿させて上澄みの水を濾過、その前後に塩素処理を行なう「急速濾過法」である。 元帥がそれほど汚染されていなかった頃は「緩速」方式が日本では主流だったが、時間がかかり、広大な浄水場が必要なため、都市部を中心に「急速」方式にうつりつつある。特に液体塩素の注入により、腸チフス菌、赤痢菌、大腸菌、病原ウィルスなどを完全に殺菌消毒するのが利点とされている。 水道水は、たしかに原水からいって自然の水である。ただ、その原水は特に大人口を抱えた大都会の場合、汚濁水と呼んでも過言ではないような汚い河川や貯水池のものを使わなければならない。関東では、埼玉県朝霞浄水場の水質検査で、利根川朝霞付近の平均濁度90度、水1リットルあたりの細菌数は一万個という結果が出ている。大阪の淀川も似たり寄ったりの汚染状態である。 このような汚水に等しい原水を、ともかく最先端の化学技術ではほとんど完璧といわれるほどに浄水し、各家庭に送り届けているのが現状なのである。 有り難いと言わなければならないことだが、その最先端技術が加わった水道水は、いわゆる「人工水」ではないにしても、どうしても自然の水とは隔たりを認めないわけにはいかないだろう。残念だがこれも「安全」のためには致し方ない。 原水を汚しているのは、産業排水、農業排水、それに家庭排水である。それらには時に、毒性の化学物質、残留農薬、合成洗剤などが含まれている。 河川などの地上水から多くの原水を求めているわが国では、原水に対して強力な塩素消毒が求められる。水道水の不評の主因となっているカルキ臭さ、つまり塩素臭はここから来ているわけだ。「安全」は不可欠だが、水道水の「おいしさ」を妨げている最大の原因がこの塩素なのである。 1)楽観できない日本の水 自然の汚染の中で無視できないのが「酸性雨」だ。何しろ「レモン液」といわれるほどの酸性雨が世界各地で見られるようになっているのである。日本でも全国ほとんど例外なく酸性雨が降っている。Phで表される水素イオン濃度の値が、中性の7より小さいほど酸性度が強くなり、5.6以下の雨を酸性雨という。現在日本、或いは世界各地で降っている酸性雨のph値はもっと低く、だいたい5以下、4台が多くなっている。いかに酸性の度合いが強いかがこれでわかる。 酸性雨の原因は、なんといっても石油炭素系の燃焼による排ガスだ。理化学産業を中心に各種工場に於ける化学燃料の消費増大、さらにモータリゼーションの普及が排ガスに拍車をかけている。特に日本海側では、工業化がめざましく進む中国大陸から偏西風に乗って運ばれてくる大気中の硫黄酸化物が、雨に解けて降ることが少なくない。 いまや、空気も雨も水も、汚染はグローバル化しているのである。浄水の必要はもちろんだが、求められるのは汚染の原因にメスを入れる根本的な解決だ。近代の産業構造や生活形態から見て、このままでは汚染は拡大するばかり、いよいよ深刻なのである。 日本の水汚染の現状、および将来の見直しは、決して楽観するものではない。私たち自身がおいしい安全な水を飲む、或いは飲めるようにするというだけでなく、水、そしてこの自然を守っていくということは、子々孫々に対する私たちの義務であり、責任なのである。 2)合成洗剤から水を守ろう! 河川を汚染するものとして古くから考えられていたのは、人間や動物の排泄物である。便所のことを、昔は「かわや」といっていた。すなわち「川屋」で、昔の人は川の上に便所を作り、排泄物は川に流していたのである。昔は衛生思想が進んでおらず、汚物を危険視することがなかったが、川の流れによる自浄作用にも頼っていたのであろう。 河川はもともと自浄作用を持っている。しかし、流域に人口が急増し、排泄物のほかごみや下水などの廃棄物が多くなると、自然の浄化作用ではとても間に合わないのである。自然の資源に限りがあるように、自然の浄化力は無限ではないのだ。 日本でも水洗トイレの普及と下水道の整備は進んでいるが、それでも欧米諸国に比べると、まだまだ「後進国」と言わざるを得ない。パリなどには巨大な下水道が通じていて、パリの下にもう一つのパリがあるといわれるくらいであるが、日本ではまだ下水道管が用いられている現状だ。 家庭排水を通じて原水を汚染しているもので、近年問題になっているのが合成洗剤である。合成洗剤は石けんと違って天然油脂からでなく、石油などを合成して作られることはご存知の方も多いと思う。 石けんがアルカリ性なのに対し、合成洗剤は水に溶けると中性を示す。一般に石けんよりも洗浄力が大きいとされているので、食器にも衣類にもほとんど一般的に使われている。現在、合成洗剤は90%の家庭で使われているといわれている。問題はその泡で、自然界で分解されにくいため下水処理に難題があるのだ。その上、リンの含有量が多いので公害として、排撃運動が激しく起きた経緯も有る。その後、リンのソフト化あるいは無リン化によってこの点は改善されているものの、野菜や果物など食品の戦場には注意が必要で、厚生労働省でも「侵漬時間を5分間以内とし、その後のすすぎを十分するよう」と進めている。しかし、下水処理の問題は山積するばかりで依然解決しておらず、水質汚染防止という立場からは、合成洗剤よりもなるべく石けん洗剤を使用するよう呼びかけや運動が盛んになってきている。いずれにしても日常の心掛けと実行、これが水と自然を守る事につながっているのである。 3)水道水に含まれる発ガン物質「トリハロメタン」 トリハロメタンは水中の塩素と有機物が反応してできる有機ハロゲン化合物の一種で、クロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタン、ブロモホルムの4種類が有る。これらの物質が水道水から検出され、トリハロメタンには発ガン性が認められていることから大きな問題となっている。水道水は人が一生涯飲みつづけるものだから、長期的に飲用しても安全であることが必須条件であることは言うまでもない。そのため、日本やアメリカでは、4種類の総トリハロメタンの量が1リットル中0.1ミリグラム以下という暫定制御目標値が設定されている。 トリハロメタン生成は、原水の汚濁と塩素注入量の増加にその原因がある。都市への人口集中は河川や湖沼などの水質汚濁を進行させ、また人口増加のために都市部に供給するための水道原水量が不足した結果、汚濁が進行した水源からも取水せざるを得ないのである。 汚濁した原水中には有機物、アンモニアなど塩素と容易に反応する物質(塩素消費物質)が含まれる。塩素消費物質がない、あるいは少ない水を塩素処理する場合は塩素の注入量は少なくてすむが、塩素消費物質を多く含む汚濁した水を完全に消毒するには、その分だけ多く塩素を注入せざるを得ないのである。 水道原水の汚れの原因は流域環境で異なるが、大都市周辺の河川や湖沼では、自然かい由来の物はごくわずかで、70~80%以上は人為的に発生した生活排水や産業排水によるものなのである。水道水中のトリハロメタンの削減のために、世界各国の水道事業体では現在の浄水処理システムに活性炭やオゾン処理などの高度処理を付加して、トリハロメタンの前駆物質となる有機物を除去する技術や、塩素処理の代わりにオゾン、二酸化塩素、クロラミンなどの代替消毒剤を開発、検討している。 近年、水道水の味の悪さ、塩素注入量などの懸念、トリハロメタンなどの危険がマスコミや一部の学究や有識者によって報じられていることもあって、水離れ減少はますます加速している。 本来、人間は生水、自然水を日常飲用して、健全な生命の源泉とすべきであるのに、その結果、ミネラルウォーター、パックやボトルの水はいうまでもなく、いたずらな加工と添加物処理などをした「酸素のない死んだ水」いわゆる人工水が巷に氾濫している。水道水を飲んでいるのは国民の約1割以下とも言われているのである。 このような現状は、国民衛生上きわめて深刻な問題であるといわねばならない。世界の創造、人類の起源依頼、人は水によって生まれ、育てられ、水によって生命を保持してきたのだ。本来あるべき姿の生水飲用を捨て、テレビコマーシャルなどのイメージ広告に惑わされ、環境を無視したプラスティックの生産を結果として応援するような事を続ければ、「地球温暖化」を待つまでもなく、人類を存亡の危機に追いやっていく事になるのではないかと思う。 生水、真水を飲むのは、生命の源泉を求め、これを自然に回復することが最も重要なことではないだろうか。生命の源泉には目もくれず、ただ自分だけ儲かればいい、というような考えの上に、安易で手軽な商品を販売する企業、また購入者はきっと環境が本当に良くなることなどどうでもいい、人任せなのである。自分だけが良ければいい、面倒くさいことは見てみぬふりをする、これは「心の死」を意味する。 いい水を飲むためには生活排水にも配慮した生活を心がける責任があるということ、これこそが人間再生の活路ではないのだろうかと私は思うのである。 トリハロメタンの話に戻るが、もちろん塩素だけではトリハロメタンは発生しないのだ。水道水中には原水に含まれていて濾過できなかった生活廃水や工業排水の一部の有機物などが化合してトリハロメタンが発生してしまうのだ。そう言う意味でも原水の汚染を解決することが、水道水中のトリハロメタンをなくす大前提なのである。 前へ 次へ | 川の浄化に関する活動について 生活アートクラブは川の浄化をまじめに考えます 第1章 水と人間の関わり 第2章 水の大循環 第3章 海に囲まれている日本 第4章 水道水の浄化処理方法 第5章 日本の下水道について 第6章 下水道ものしり事典 第7章 最近の台所用合成洗剤 第8章 生活排水を汚す原因 第9章 環境への思いやり 第10章 洗剤による水汚染について 第11章 河川の水質汚濁防止方法 第12章 排水に関する法規制 第13章 生活に川をとりもどすために 第14章 川に流される大量の合成洗剤 第15章 危険な合成洗剤 第16章 台所用合成洗剤のゆくえ 第17章 合成洗剤や石けんの残留 第18章 石けんは環境や体にやさしい 第19章 界面活性剤の役割 第20章 化粧品に含まれる指定成分 第21章 合成洗剤についてのQ&A 第22章 竹が環境浄化に役立つ理由 第23章 美女の肌を守りつづけた炭 第24章 炭の浄化力 第25章 竹炭の材料になる竹の種類 第26章 竹炭の特徴について 第27章 今自分にできることを 第28章 地球はちょっと疲れてる 第29章 HPを立ち上げるきっかけ 第30章 愛 第31章 魚と合成洗剤 第32章 竹を見直そう! カンボジアの井戸掘り事業 |